人間の皮膚が一人一人違うように、動物の皮を加工した皮革も、1枚1枚異なっています。「個体差」と呼ばれるこの違いは、皮革の個性といえます。さらに、生きて活動をしていた動物の表皮から作られる皮革は、それぞれに趣が異なっているのが普通です。どれだけ丁寧な鞣し加工をしても、この個体差は避けられません。
スコッチグレインでは、これらの皮革の個性を踏まえた上で、タンナーから送られてきた革1枚1枚を、自社でもう一度検品して、商品にふさわしいグレードに選別していきます。この独自の選別基準がスコッチグレインのこだわりです。しかし、革に特徴的な紋様などがあるのも事実。このような紋様は天然素材にしかない特徴といえるので、革好きの方々には、美しい革模様として珍重されています。
「トラ」とは、表面にスジのように入っているシワをさします。首の周りや腹、背中など、生きている時からシワが寄りやすい部位の革によく見られます。わずかにあるものから、1枚の革全体にわたって走るものまで、いろいろな「トラ」模様がありますが、革の表情をつくる重要な要素のひとつです。
皮革は加工することで通常は平面の状態になっています。しかし原皮の段階では膨らんだ箇所があったり、シワが寄ったりしています。骨が突き出てた関節などの部分は膨らんでいますし、わきの下や首筋の皮はシワが多いのも当然です。
こうした不規則な凸凹やシワだらけの原皮を、皮革にしていく加工過程で引き伸ばしたり、アイロンをかけてシワを伸ばしたりして、最終的に平らに近い状態になるように加工します。それでもこれには限界があります。例えば、伸ばしたシワのところが染色した時に濃くなって、色ムラになることは非常によくありますし、シワが痕として残ったりすることもしばしば起こることです。このような色ムラは最終的な仕上げを終えて、初めて縞模様のようになって革表面に現れてきます。
このような縞模様を皮革業界では「トラ」と呼んでいます。「トラ」は首から胸にかけての部位でよく見られ、革のトリミング次第では非常に美しい革模様となることもあります。また「トラ」の部分は、他と較べて強度面などで劣るということもないため、よほど見栄えの悪いものでない限りは、資源の有効利用のためできるだけ取り入れるようにしています。
一般的には、塗装や型押しなどの表面加工によって消していることも多いようです。
革への造詣が深く、自然に近い状態の革を好む本当の「革好き」の方には、むしろ「トラ」が非常に好まれます。
「血スジ」とは、皮革の表面に、葉っぱの葉脈やイナズマのように細かく枝分かれしたスジ模様のことです。元々は、皮膚のすぐ下にあった血管の痕跡で、自然の風合いを活かした革の表面に見られます。
こうした血管痕のことを、皮革業界では「血スジ」と呼んでいます。
「血スジ」の表れ方は、一定ではありません。皮膚の薄い部位や、血管が体表近くに浮き出ている部位を使った皮革では、血スジがはっきりと出やすい傾向にあります。本来、この血スジは皮革につきものですが、この血スジを隠すために、表面加工や厚いカラーコーティングをしていますので、表面的には見えないことが多いと思われます。
しかし、自然の風合いをそのまま生かした革製品では、表面加工をあまりしません。欧米などの革製品の歴史が長い国々ではあまり見かけない加工です。しかし革製品に慣れていない人は、血スジを見て驚かれることもあるでしょう。
最近では革そのものに対する知識が普及し始めており、血スジへの理解や血スジを積極的に楽しもうという方が増えてきています。とくに若い人やクリエイティブ系の仕事をされている方の中には、シワや傷痕とともに血スジが入った革を故意に使用して、ラフでナチュラルな感じをアピールした製品に人気が集まってきているようです。
基本的に血スジは模様であって、革質の良否に関わるものではないので、血スジも革の風合いの一部として楽しんでいただきたいものです。
天然素材の皮革には、傷はつきものです。ですから、傷のある革=悪い革とは一概にいえません。ナチュラルテイストに仕上げた皮革は、自然の風合いを損ねないために、表面加工をしないので、原皮に元々あった傷跡もそのまま表面に表れます。
革は、動物から採れる天然素材です。多くの場合、放牧飼育されているこれらの動物には、元々傷つきやすい環境にいます。つまり原皮には傷がつきものなのです。ですから、皮革表面に傷のある革が、必ずしも悪い革とは限りません。天然素材の革ならではの特徴のひとつといえます。
こうした傷は、原皮に傷跡として残ることがあります。皮革加工の段階を経ても傷は革に残っていますが、これを皮革業者の間では「バラ傷」と呼んでいます。こうしたバラ傷は、動物の皮革である限り、なくなりません。
バラ傷や虫刺され痕があまりにひどい場合は、革を加工する際に、銀面(革の表面の一番上の層)を染料でペイントしたり、型押し加工などをすれば傷はほとんど見えなくなります。
しかし、ナチュラルテイストの革では、このような表面加工をできる限りしないため、バラ傷や虫刺されなどの傷が革表面に出てきます。ナチュラルテイストの革は、こうした「自然らしさ」をあえて生かす素材ですから、むしろ自然の革の風合いとして、積極的にお楽しみいただければと思います。
日常生活の中で革製品を使う歴史の長い欧米では、バラ傷やトラ、血スジは、革の表面にあることが当たり前で、自然の特性が生きている証として、喜ばれるものです。
日本でも最近、こうした自然の皮革の特性を生かした特殊加工の革素材が、若い人を中心に人気を集めています。
革を染めていると、同じ1枚の革でも、部位によって繊維の密度や厚さが違うために、染めムラが出ることがあります。全体が均質ではない自然素材としての革の特徴で、独特の革らしい味わいをかもし出してくれます。
革質は動物の年齢や雌雄、生活環境、品種、個体、身体の部位など、あらゆる条件で異なっています。ですから染めの工程でも、2つとして同じ染め具合の革は存在しません。それがまた、革を特別に個性的な素材にしている理由です。
染めムラが出る理由のひとつは、身体の部位による差です。同じ牛から採った1枚の革でも、身体のどの部位かによって肌理の細かさや風合いが違ってきます。例えば牛の場合、バットと呼ばれる背側の革が、丈夫で繊維の密度が高いために重宝されます。逆に腹側は繊維が粗く、柔らかくて伸びてしまうのが難点です。腹の部分は鞣して革になっても繊維が粗く、革質にも多少ムラがあります。
また、同じ牛の同じ部位にある狭い面積の革でも、斑紋のようにムラができることがあります。革の狭い範囲の中に、色が濃い部分と薄い部分、肌理が細かい部分と粗い部分があるという状態です。これも革質の不均一が原因ですが、革が天然素材である限り、どうしても出てくるものです。しかもこうした1枚の革の中の色ムラ・染めムラは、革を染色した時にはじめて出てくるものがほとんどです。
自然の風合いを大切にした表面加工のほとんどない革素材では、多少の色ムラ・染めムラはどうしてもつきものです。欧米では、色ムラ・染めムラを好まれる方も多く、こうした革のイレギュラーさを十分に理解して楽しまれる人の方が圧倒的に多いので、あまり気にはされないようです。
なお、最近では故意に傷やムラ、古びた感じを革に加えるブロークンレザーやアンティックレザーが若者を中心に人気を集めており、こうした革特有のイレギュラーへの理解も広がっているようです。革の本当の面白さとは、実はこうしたイレギュラーな性質を積極的に楽しめることなのです。