スコッチグレインの企画・運営・販売を実施している株式会社ヒロカワ製靴の代表取締役である廣川。彼にスコッチグレインの誕生ストーリーや、今後大事にしたい想いなどを聞いた。廣川にしか語れない話をここにまとめました。ぜひ皆様にご一読いただきたい内容です。
Date 2024.06.11
スコッチグレインを語るには私の父親の話をしなければなりません。私のルーツは新潟なのですが、父の姉が東京で靴屋を営んでおり、そこに父が手伝いに行くことになりました。そこから数年が経過し、人手が足りないからということで私も呼ばれてこの業界に入りました。
父にはよく「儲け過ぎるな」と言われましたね。これは「材料を無駄にしてはいけない」ということと、「適正価格で提供することで長く愛される会社でありたい」ということなんです。そして「製法にもこだわる」こと。真面目な父らしい考え方ですね。これらの考え方は今でも当社、そしてスコッチグレインに受け継がれているものづくりの精神です。
スコッチグレインが生まれる前、当社は百貨店様やアパレルブランド様の革靴をつくっていました。有名ブランドの革靴をたくさんつくっていた頃の話です。ブランドのデザイナーの方が考えたデザインを形にして、毎シーズン2000~3000足の革靴を納めていました。懐かしい話ですが、一括で納品してほしい、というリクエストを受けたこともありました。さすがに一括は難しくてどうしようかと悩んでいたら、父からレンタカーのトラックで運べばいいじゃないかと言われて、ホロ付きのロングトラックで納品したこともありましたね(笑)。その頃はまだ自分たちのブランドをつくろう、とは思っていませんでした。
これまでたくさんの革靴を納めていたアパレルブランド様の方針が変わり、当社での生産が終了しました。生産が終了した背景にはデザイナーの変更であったり、コスト面の見直しだったり、いろいろなことがありました。このような事態に陥る可能性があるのは下請けの宿命ですね。しばらく経って父が独立。1964年、台東区にてヒロカワ製靴を創業しました。工場を引き継ぐことができて自由に生産できるようになったこともブランドをつくるきっかけになりましたね。当時は下請けの革靴屋が自社ブランドを持つことはなく、納品先のライバルになってしまうのでいい顔はされない時代。それでも先ほど語ったアパレルブランド様の革靴づくりが終了したこともあり、安定した経営も課題になっていたこともあって、やはり自分たちでブランドをつくろうと決め、そうして生まれたのがスコッチグレインです。
しかしブランドをつくったものの知名度は皆無。でもそのタイミングで広告代理店の方が訪ねてきてくれたんです。そこから雑誌に広告を出したり、横浜スタジアムに看板広告を出したりしながら徐々に知ってもらえるようになりました。雑誌に広告が載り、口コミでも評価されて徐々に販売量も増えていきました。人気が出てきたことで、最初は良い顔をしてくれなかった販売店様も徐々に取扱量を増やしてくれましたね。やはりグッドイヤー製法による履き心地が良く高品質な革靴だったことが高い評価に繋がったと思います。
スコッチグレインが誕生してから今日に至るまで、その生産工程においては様々な工夫を積み重ねてきました。昔は靴底にコルクを入れていたのですが、その接着のために松脂(まつやに)を使っていました。電気小手を用いて溶かしながら靴底の決まった場所に塗るのですが、それが固まって接着されるまで時間がかかります。それだと作業効率が悪くて生産性が下がってしまう。職人にはせっかちな人も多くて、固まる前に次の工程に移ってしまい結局失敗作になってしまうこともしばしばありました。そこでコルクではなくスポンジ素材のものに変えたんです。ビーチサンダルの製造過程で余りものとして生じる端材を使うようになりました。今では建築資材にも使われる硬質スポンジを用いています。専用の形状に型抜きした両面テープで貼り付けることで生産効率も向上しました。
木型はもともと創業者が削っていたものがほとんどでした。今でも創業者が削った木型で生産されたアイテムもありますね。スコッチグレインがスタートしてから私も見様見真似で削り始めました。木型を削るということは革靴を履く人たちの足の形状を考える機会が自ずと増えるんです。やはり履き心地は革靴にとってとても大事ですから。昔と今では日本人の足の形も変わってきました。当時、銀座店の店長からも甲の高さが低い方が増えてきたという話も聞いていましたから、これまでよりちょっと低くして長くスマートな木型を削って革靴をつくった。そしたら創業者からは「勝手なことをするんじゃない、長いのはだめだ」と言われてしまいました。でも諦められなくて何度もチャレンジして幾度も話し合ってできた木型があります。それはスコッチグレインの中でもロングセラー、今では定番のアイテムになりましたね。ここで伝えたいのは創業者の考えが古いとかそういうことではなく、店舗を持っていることでお客様の足をしっかりと理解しているスタッフがいて、店舗で観察されたことや気付きを生産にフィードバックできることがスコッチグレインの良いところのひとつであること。スコッチグレイン自ら木型を削る、スコッチグレイン自ら革靴をつくる、スコッチグレイン自ら販売する直営店をつくる。これがスコッチグレインらしさを維持できている理由のひとつですね。今思えば店舗にスコッチグレインだけしか販売しないという決断をしたことも良かったですね。いろんなメーカーの革靴を販売するとそれだけスタッフのノウハウも分散されますし、工場にフィードバックできることも減ってしまいますから。店舗を持つことでお客様の足の形状、サイズ、そういったカルテのような情報を蓄積できていることも良かったと思います。足を測り、スタッフが革靴を提案する、この過程においてお客様と会話しますよね。お客様とのコミュニケーションで得た気付きすべてがスコッチグレインをより良いブランドにしてくれたと思います。
当然ながら製法だけでなく革にもこだわっていまして国内外問わず一流のタンナー(革の製造をする会社)から良質な革を仕入れています。例えばフランスのアノネイ社は誰もが知るハイブランドの製品に用いられている革をつくっている会社なのですが、工場に訪問したら「わざわざ工場まで訪ねてくるとは」と驚かれました。実際につくっている現場を見ることはとても大切なこと。私たちにとっては普通のことですが、ヨーロッパでの商談は展示会で完結することも多いのでわざわざ訪問することは少ないようです。今でも良好なお付き合いが継続できています。長くお付き合いしたいからお互いのことをよく知る、これはタンナーに限らずすべての取引先様へのスタンス。良い時もあれば、課題が続く時期もありますが、だからこそお互いをよく知ることで課題があるときは一緒に乗り越えていけるような関係性が大切だと思っています。
スコッチグレインの工場にはグッドイヤー製法のための機械だけでなく、様々な機械が並んでいます。最新の海外製の機械を導入し、完成度の高い革靴をつくり続けられる体制を整えています。企業秘密は一切ありません。他の靴ブランド様にもご希望いただければ見学していただくことも可能です。革靴業界全体の向上に繋げていきたいから意見交換もどんどん積極的に行いたいですし、当社の工場や機械設備を紹介することで、その機械が今よりもっと普及する可能性がありますよね。そうすると機械屋さんにも喜んでいただける。業界全体の向上ということも使命のひとつだと感じます。見学の際は写真も撮ってもらって構いせん。包み隠さずお見せしますよ。
グッドイヤー製法はパーツの交換などができるため修理を前提とした長く履いてもらうためのものです。だからこそ日頃からお手入れをしっかりと行っていただきたいですね。雨の日に履いたあとにお手入れを怠ったり、風通しの良くない環境で保管してしまうと傷んでしまいますから。グッドイヤー製法はパーツの交換を前提としているため縫製して組み合わせています。だからどうしても完全防水にはできません。だからこそお手入れやパーツ交換・修理をして長く履いてほしいです。愛情を持って接してあげてください。
スコッチグレインが誕生してもうすぐ50年になりますが、世代を超えて愛されるブランドになりたいですね。店舗にはお父さんとお子さんが一緒に訪れる姿も増えてきました。他にも上司と思しき方が若手の後輩・部下の方とお越しいただく姿もよく見かけます。後輩・部下の方が独身の場合、結婚されている上司の方よりも自由に使えるお金があるから良いモデルや複数ご購入いただくこともあります。そのたびに「俺よりも買いやがって(笑)」というような会話も聞こえてきますね。お父様も、上司の方も、ご自身が履かれているスコッチグレインの革靴の良さを自慢してくれたり、スコッチグレインの魅力を語ってくれて本当に嬉しいです。こういったストーリーのひとつひとつはスコッチグレインの宝物ですね。
スコッチグレインの基本となる製法や考え方は、スコッチグレインが誕生した頃から変わっていません。もちろん工夫の積み重ねで変わった部分もありますが基本は変わりません。変わったことは品質が良くなっていること。これも工夫の積み重ねだったり、機械が良くなったりしているからこそ。それにより職人のレベルも上がっていきますから。だから昔からスコッチグレインのファンの方には今後も良い革靴をお届けできるのでご安心いただきたいですし、新たに履いてくださる方々にも、世代を超えて愛されるスコッチグレインであることを約束いたします。